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認知症のくすりは効果がないうえに…

とにかく「効かない」

認知症とくすり認知症とは、主に物事を認知することと、記憶、特に短期の記憶が障害され、それまでできていた社会生活上の適切な判断や言動が難しくなり、ひどくなると妄想や幻覚などの症状が出るようになる病気です。

しかも、それが徐々に進行するのが特徴で、短期的、一時的にそのような状態になるのは「せん妄」と呼ばれ区別が必要です。記憶の障害、適切な判断が困難になることはその人の社会生活を因難にし、幻覚や興奮、徘徊などの行動や精神症状は、本人に及ぶ危険に加えて介護するものにとっても危険となります。

また、「生の質」(Quality of Life)の低下につながる重大な原因となります。こうした状態を改善できないかと、種々の薬剤が試みられてきました。

全種類効かない?
脳梗塞や脳出血の後遺症に用いられてきた脳循環代謝改善剤は、「脳卒中後のしびれや意欲の改善などに効く」として、1980年代に続々と開発されました。その種類は98年春には37種類にまでなりましたが、98年5月に4種類、その後計31種類が取り消され、現在認められているのはわずか6種類だけになってしまいました。その6種類も英国、米国、オーストラリアでは認められていません。なくても医療は成り立つということです。

この種の「薬」で多かったのが、脳の血管を広げる作用をするもの。しかし、脳梗塞で詰まった血管の再開通は難しく、健康な血管だけが広がって、詰まった部分は改善できず、逆に血液が欠乏します。

次に、脳神経の興奮を適度に調整して、脳の働きをよくしようとするもの。ところが、ダメージを受けた神経の働きは鈍いが過敏ぎみなので、害反応も起きやすくなります。鈍った働きを刺激すると興奮しすぎ、興奮を鎮めようとすると抑制されすぎます。

新薬としての開発途中で害作用がはっきりして開発中止となったものもあります。この物質は脳を興奮させるとともに行動も活発になり、心筋梗塞などの心臓病で2人が死亡しました。しかも認知や記憶のレベルは改善しませんでした。それもそのはずで、この物質は覚醒剤として有名なアンフェタミンの作用にそっくりだったのです。

脳循環代謝改善剤は、一般にはいわゆる「抗痴果薬」として大いに期待され売れました。信じてきた薬が効かないとわかったときの患者さんや家族の驚きは大きかったことでしょう。さらにこれら薬とはいえないような物質に、承認から取り消しまでの十数年間で一兆数千億円の薬剤費が使われてきたのです。これは膨大な無駄遣いですし、副作用の被害にあった人もいたはずです。

アルツハイマー型認知症に対し承認されたコリンエステラーゼ阻害剤は、日本で開発されたこともあり、日本では唯一ドネペジル(商品名「アリセプト」)が用いられています。認知や記憶をつかさどる神経の働きに不可欠なアセチルコリン(副交感神経を剌激する物質)を分解するコリンエステラーゼを阻害する薬として開発されました。認知症の人と家族が危険にさらされかねない症状に徘徊や妄想、幻覚、興奮状態がありますが、これらの症状がひどくなれば施設入所はやむをえなくなります。

英国で実施された約2年間の大規模長期臨床試験で、ドネペジルは認知や記憶をわずかに改善したが、施設入所率などは改善しなかったという報告が最近出されました。1年から2年くらい症状の改善は続いたのですが、これがどれほどのメリットになるのか。臨床試験のまとめには「ドネペジルはコストに見合うメリットはなく、コリンエステラーゼ阻害剤より有効な薬剤が必要」との結論が出されています。2006年に判明した脳血管性の認知症患者を対象にした比較試験では、プラシーボ(偽薬)群326人中誰も死亡しませんでしたが、アリセプト群648人中11人が死亡しました。

そのうえ、吐き気や下痢をはじめ、副交感神経にともなうさまざまな副作用があります。胃潰瘍や喘息、脈の遅い人、パーキンソン病やその傾向のある人は、その症状が悪化するので服用しないほうがよいでしょう。脳卒中後もアルツハイマー型認知症も脳血管性の場合も、家族や仲間とのよい関係をつくることが、患者の意欲を引き出し、ひどい症状を起こさないためにもっともよい方法なのです。

他の薬剤も要注意
認知症用薬剤以外では、徘徊を主とした行動障害に、ある種の統合失調症用薬剤(チオリダジン)が老年精神病の「不安・焦燥・興奮・多動」に対して承認されていますが、一般に抗精神病剤は、認知症にともなう精神症状や行動障害には承認されていません。日本だけでなく諸外国でもよく使われていますが、米国では使われ方のあまりのひどさに、ようやく規制されるようになりました。

幻覚や異常興奮など、統合失調症に見られるような急性の精神病様の症状に対して、統合失調症用の新薬が、ある種の副作用が少ないことからよく使われています。しかし、2002年、カナダ政府との協議でメーカー (ヤンセンーオーソ)は、「リスぺリドンを老年認知症に使用するときは脳卒中の危険が高いことを医師は認識し、患者・家族に伝えることが必要」という警告を発し、その後、米国、英国でも脳卒中に関する警告が出されました。

04年の英国政府の分析結果では、リスペリドンは、プラシーボ群に比較して脳卒中の危険が3倍超高まる、年間六人に一人が余分に脳血管障害が生じると計算されました。英国のガイドラインでは、急性精神病のような興奮状態に緊急避難的に抗精神病剤を使用することまでは否定していませんが、それでも脳卒中の既往歴や危険因子を十分考慮すべき、少なくとも徘徊などの行動に対する使用は利益より害が上回るので、使用中の人も見直すよう勧告しています。

日本ではまったく規制されていませんが、認知症の家族、治療にあたっている医師は、英国のガイドラインを参考に、適切に対処すべきと考えます。さらに認知症治療で大切なのは、ほかの薬剤の見直しです。せん妄や徐々に「認知症様症状」をひき起こす原因になっているので注意が必要です。