クスリのロゴ

良い薬・悪い薬情報から病院・医者までの総合サイト

  • お問い合わせ

高齢者だから手術できない?内臓年齢と実年齢は違う

高齢者だから手術できない?内臓年齢と実年齢は違う
保守的な日本の手術方法
日本の医学のレベルは世界的にも高いところにありますが、個々の技術を検討していくと、極めて保守的で、横並び意識が強い面もあります。
手術の中で、たとえば後腹膜腫瘍を腹腔鏡のもとに切除する手術があります。

後腹膜腫瘍は腹部のいちばん背中側にあるので、通常手術をすれば正中切開(縦切り)になります。つまりみぞおちからヘソの下までの大きな切開になるわけです。季肋下切開という方法もあり、この場合も腹部中央から左右の側腹部まで大きく切らなければなりません。

ところが腹腔鏡を使うと、腹部は4カ所ほど穴を開けるだけで済み、しかも内視鏡カメラを病変の近辺まで寄せると、肉眼で見るよりも小血管を容易に確認することができ、意外に簡単に手術を終えることができるのです。

この時もおなかの中でもっとも大きな腹部大動脈をきれいに露出して、その大動脈に付着している腫瘍を注意深く電気メスを用いてはがしました。

難点といえば、視野が狭いために解剖学的な位置関係の把握に、若干時間が必要であることと、血管の実際の太さがわかりにくいこと、限られたスペースで視野を作らなければならないので、回りの組織が邪魔にならないよう体位を変えたり、周囲の組織をうまくよけながら視野を作るといった作業が必要になります。

そのため、1時間ほど手術時間は長くなりますが、慣れるとそれほど違いは無くなります。その他の利点としては、出血量が少なく、その上、翌日には歩くことができる、また食事も早くとることができる等、総合的に考えても利点のほうが大きいといえるのです。

内視鏡を用いた手術はアメリカから始まった手術なので、アメリカにおいてはこのような手法がどんどん応用されて、めざましい進歩を遂げています。

しかし日本の保守的な考えの病院においては、なかなか取り入れられないのが現状です。癌に対しては、まだまだ長期成績を出すほどの症例が集積されていないので、慎重に対応されている施設が多いようです。今後の結果によっては適応が広くなるか、適応外になるか、結果が待たれるところです。



高齢者の手術とその危険性
世界一長寿国である我が国では、今後ますます高齢者が増えつつあり、高齢者が手術を受ける機会が増えています。一般に手術を受けることをためらうことの一因に、患者さんの年齢が関係することがあります。

例えば「この病気はどうしても手術が必要です」と申し上げたら、本人ばかりでなく、家族も「もう歳が歳だから、手術は受けさせたくない」とおっしゃることがよくあるのです。

年をとると病原菌に対する抵抗力が弱くなりますし、手術後の快復力も遅くなります。しかし、何歳になったら手術を受けるのは難しいという、絶対的な基準があるわけではありません。

人の暦年齢と、その人の内臓の年齢は違います。20年ほど前までは、60歳が高齢者と言われていました。つまり、60歳を越えたら、手術については高齢者としてより注意して扱うということです。

しかし15年前に、日本消化器外科学会のシンポジウムで「各臓器手術においての高齢者の定義を何歳にするか」という見直しが行なわれました。

過去15年にわたる大腸癌1000例の手術ケースを集めて行なった統計学的分析でした。手術の危険性が増す年齢に線を引いたところ75歳を境にして、手術前の心臓病、肺疾患などの合併症が多く、手術後の肺炎、心不全や細菌性ショック、縫合不全、手術後30日以内死亡も高頻度でした。

75歳以上の大腸癌の特徴としては、症状がひどくならないと病院にかからないことと思われます。すなわち、診断時期の遅れから癌が腸を開塞させたり、腸が閉塞による内圧の上昇に耐えきれなくて、突然穴があいて腹膜炎になったりしやすいことがあげられます。

また、肝臓や腹膜への転移などを伴う進行癌が多いことも、その特徴としてあげられます。そのため、術後に病原菌が全身にまわる敗血症、血圧低下や肺炎、腎不全などを合併しやすいことがわかりました。

しかしこのような合併症がない限りは、90歳を越えても、慎重な手術と術後管理で無事に退院できたケースもありました。つまり、個々の症例について、何歳になったら手術ができないということは言えないのですが75歳を越えると心臓や肺の機能が低下した方の頻度が明らかに高くなるので、75歳が妥当と考えられました。

胃や食道や肝臓などについても発表がありましたが、60歳や70歳を高齢者の定義としていた報告では、高齢者でも積極的に手術をすすめるべきだという意見が大半でした。

先に人の暦年齢と内臓の年齢は異なると申し上げましたが、70歳以上の方の中には―暦年齢よりも十歳以上若く見える方は、手術を受けても若い方と何ら変わることなく回復していきます。

つまり、暦年齢よりも、見た目の年齢の方がきわめて重要だということです。若く見える高齢者は、気持ちを若く保ち、明るく積極的な性格の方が多く、暦年齢よりも年をとって見える人は、どちらかといえば否定的、消極的な性格の方が多いように思えました。

よって、高齢者になっても若くみられるためには、日頃から気持ちを若くもち、明るく、積極的に生きることを心がけるとよいでしょう。

さて、高齢者の定義は時代と共に変化しています。現在の学会では、高齢者は75歳から80歳といわれるようになりました。もちろん90歳を超える患者さんでも手術を無事に終える人も少なくありません。高齢者だから手術は無理ということは、ありませんのでどうぞご安心下さい。