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高齢者だから手術できない?内臓年齢と実年齢は違う

手術のリスクは人によって違う!病気の情報収集をしよう
切るか・切らざるかは永遠のテーマ
皆さんが病院で検査を受けた結果、手術が必要であると診断されたとします。そんなとき、みなさんはまず切らずに治す方法がないかと考えるはずです。

どんなに医学が進歩しても、身体の一部を切除するということについては誰でも抵抗感があるのが普通です。手術することによって完治する見込みのある場合はともかく、そうとは限らない場合は、特に悩むことでしょう。

命に関わる病気の場合や、緊急性のあるときは、悩む時間も与えられないことがあります。しかし、命に別状がなく、すぐに切る必要がないときは、なおさらその悩みは増大されます。

女性にとっては、乳癌や子宮癌にかかったとき、乳房や子宮を切除することに大きな抵抗感があります。その抵抗感に悩んでいる間に病気がどんどん進行し、手遅れになってしまった例も少なくありません。

結局、手術を受けるか受けないかは、それによるメリットとデメリットをはかりにかけて、それぞれの足し算の結果を比較した上で決断することになりますが、それに関する情報をできるだけたくさん集める必要があります。

さいわい、現在はインターネットという情報収集の強力な武器があります。これを駆使すれば、難しい病気でも、それに関する手術や看護の事例、薬剤に関する情報がいくらでも集まります

ある女性の場合、乳癌で手術が必要と言われた時に、インターネットでいろいろな先生に相談をして、手術方法、再建方法、術後の化学療法などについて、医師も顔負けの知識を持っていました。

今後このような方が、ますます増えることと思います。ただ、注意が必要なのはあまりにも多くの知識を得てしまうと、なにがいいのかについてはさまざまな意見があり、たんに過去のデータで生存率がいいからといって、それにのっかってしまっていいかということです。

やはり、インターネットの情報だけで判断するのは、危険であることも申し上げておきましょう。


手術直前の検査とリスクファクター
患者さんになられても、手術を安心して受けていただくために、手術の準備から術後までの経過を述べます。

手術前の検査では、手術の対象となる疾患以外に、関連する臓器の検査も行なわねばなりません。たとえば胃癌、大腸癌を始めとする悪性疾患から、胆石症、急性虫垂炎などの良性疾患でも、全身麻酔が必要となる手術の前には全身の機能検査が行なわれます。

特に75歳以上の高齢者には、心臓や呼吸器の合併症が多く見られるので、心臓と呼吸器を中心とした「手術前の評価」が必要になってきます。

その評価対象となる検査項目は、一般的な血圧・脈拍・検尿(糖尿の有無)・血液検査(貧血・肝機能・腎機能。栄養状態等)などの他に、胸部X線写真や肺活量を含めた肺機能検査、また心電図・心臓のエコー・心臓の血管造影が行なわれます。

これらの結果をみて、手術前に治療できるものは治療して、万全の体制で手術へ向かいます。

最近話題になっている生活習慣病のリスクファクターとして、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症、喫煙があげられます。

これらは、もちろん全身麻酔や手術を行なう上でも、リスクファクターになります。しかし、とくに注意が必要な病気は心臓病や呼吸器疾患です。

手術を契機に心筋梗塞を起こすこともあり、最も細心の注意を払うのが心臓血管疾患です。心筋梗塞の発症後6ヶ月以内の患者さんは、手術前後に心筋梗塞を起こすことが多いと言われています。

また、心臓を栄養する冠動脈の狭窄のある症例は特に要注意であり、場合によっては手術を延期して冠動脈の治療を優先させることもあります。これら虚血性心疾患や心不全の患者さんには術前からの薬物治療が必要です。

また、心臓や脳梗塞後の薬の中には血液凝固を遅らせる薬があるので、最低一週間前から中止しておきます。呼吸器疾患については、とくに注意を要するものとして、気管支喘息、肺気腫があります。

これらの患者さんは手術後、人工呼吸器が必要であったり、喘息発作がでることが多いので、手術前から気管支拡張剤が必要です。また、深呼吸や腹式呼吸の練習や、痰を出す練習もします。そして、できるだけ運動をすすめて、肺機能を保つようにします。

喫煙者と術後合併症の発生頻度についての研究は、昔からされており、喫煙者で明らかに肺炎の頻度が高くなっています。

そこで、喫煙者には遅ればせながら禁煙していただきますが、タバコが原因で命を落とすかもしれないことをお話しすると、それまで絶対にタバコはやめないと言っていた人が、即座にやめることができますし、退院してからも禁煙が続いている患者さんがほとんどでした。

さて、心臓と呼吸器疾患のほかに気をつける病気も多数あります。腎臓疾患では尿が出なくなったときのために、カリウムが含まれない点滴の用意が必要です。

とくにこのカリウムは血中濃度が上がると心臓が突然止まることがあるので、最高に気を使うものです。糖尿病も高血圧も術前からのコントロールが必要ですし、甲状腺機能充進症などの頻脈を起こしやすい疾患も術前からの治療が必要です。

逆に、徐脈になりそうな伝導傷害の場合は手術前にペースメーカーも入れておかなければなりません。栄養障害の場合は栄養が足りるように補ったり、鉄欠乏性貧血が発見された場合、鉄剤を二週間ほど投与したり、必要な栄養分を補給する必要があります。

ざっとあげただけでも、こんなにもたくさんのことをチェックして、治療しつつ手術の準備をします。ただ、肥満は急に治療できるものではありません。

なぜ、肥満がリスクファクターかと申しますと、糖尿病、高血圧、心臓病などの合併頻度が多いことが知られています。その上手術においては、開腹手術の場合、皮膚を切開すると、その下に皮下脂肪が出てきます。

あまりに立派な皮下脂肪の場合、その厚さを計測したことがありますが、7~8cmも蓄えている方がありました。そして、やっと筋肉層にたどりついて筋膜を切り、腹膜をあけるまでに、かなりの時間を要することがあります。

さらに、とくに男性の場合は、おなかの中の臓器が脂肪に埋もれていて、臓器の境界が不明であったり、十分なリンパ節郭清をするにもたいへんな気力と労力を要します。その分、やせている方に比べて、出血量も多くなり、輸血が必要になることもあります。

手術前に十分な時間がある場合は、ぜひともダイエットをしていただきたいと思うのは、お互いのためでもあります。


ストラテジーとは
患者さんと医者が合意して手術に踏み切った場合、外科医はまず手術のストラテジーを検討します。ストラテジーというのは戦略・戦法のことです。

手術というのは、さまざまな病態により、多くの方法が存在します。特に現在では、従来の外科手術以外に「内視鏡」という治療ができます。また麻酔のめざましい発達等もあるので、外科医は全てをふまえた上で、手術前にじっくりストラテジーを検討してから手術を行なうことになっています。

患者さんの身体の状況がAとし、病気の進行状況をBとします。AとBを掛け合わせて検討し、Cという一つの答えが出てくる場合は簡単です。

たとえば早期の胃癌治療の場合、患者さんが健常人であり、内視鏡治療の適応でないという条件が揃えば、答えはCという手術しかないわけです。

しかしたとえばそこに「患者さんが高齢者」という条件が加わり、手術が危険であるということになれば「内視鏡で治療する」か、または「手術をする」という、2つ以上の答えが用意され、要検討となるわけです。

さらに患者さんの病状などを掛け合わせると何通りものストラテジーが考えられるのです。したがって1つの病気から、同じ答えが出ることはけっしてありません。そしてそれらをどのように選択し、進めていくかも外科医の腕にかかっているのです。

このストラテジーの決定について、患者さんとその家族の方に事前に詳しく説明するのが一般的になっています。

これは「インフォームド・コンセント」(事前の合意)と呼ばれるもので、ストラテジーの選択に当たって、どれだけのリスクが存在するか、それは術後の成績やQOL (クオリティーオブライフ=生活の質)に影響を与えるかなどを細かく説明するものです。

これによって患者さんは、ご自分でも病気について深く認識し、ベストを尽くしてもらっているという安心感と、医者に対する信頼感を確保できるわけです。